あなたは、1日何回判断をしているのか考えたことはありますか?
少し面白い話があります。一般の社員は、35回〜70回。マネージャークラスの場合は、70回〜120回。中小企業の経営者は、120回〜300回も無意識のうちに判断をしていると言われています。
資金繰り、人材配置、採用、トラブル対応、新規事業。どれも“正解のない意思決定”ばかりです。そして40〜50代は、体力の低下・集中力の低下・両親の介護・子どもの進学などの変化が重なる時期でもあります。「なんとなく判断が鈍い」 「決断が重い」 「集中しづらい」こうした“わずかな変化”こそが、実は経営全体に影響を及ぼします。
本記事では、 経営者の判断力がなぜ揺らぐのか、そしてどう整えればよいのか を、
最新のエビデンスと支援実績にもとづき、「経営戦略としてのメンタルヘルス」という視点で解説します。
なぜ「経営者のメンタルヘルス」は無視できない経営課題なのか
社長の不調は会社の失速に直結する|判断の質が事業リスクになる時代
J-STAGEをはじめ複数の情報では メンタル不調は意思決定の精度・速度・柔軟性を低下させると示されています。中小企業では、「社長=唯一の意思決定者」であるケースが多いため、社長の調子がそのまま 事業リスク に直結します。
「私は大丈夫。過去も何度も乗り越えてきた」そう思う瞬間もあると思います。しかし、実際には、意欲の低下、会議での足取りの重さ、判断タイミングの遅れで売上や社員の士気が、経営者本人が気づかないうちに蝕まれている ことがあります。
▼実例(匿名)
実際に弊社へご相談いただいたA社でも、
社長ご本人が「無意識の判断疲労によって決断が先延ばしになり、売上の機会損失が生まれていた」ことに気づかれました。
こうした“目に見えない損失”は、多くの企業で静かに進行しています。
では、A社はどうやってその原因を特定できたのでしょうか。
それは、心身の状態を多面的に可視化する仕組みによって、
経営判断を止めていた“本当のボトルネック”が浮かび上がったためです。
①ストレスチェック:思考・情動の負荷を数値化し、どの局面で負担が積み重なっているかを把握
②疲労度の構造診断:肉体・脳・自律神経のどこに疲労が偏っているかを分析
③専門カウンセラーによる面接:判断が止まる場面やパターンを丁寧に言語化
この3つを組み合わせることで、「決断が遅れる原因=本人の性格や意志」ではなく、
蓄積した負荷が課題であることが明確になりました。
40代・50代経営者が抱える特有のストレスとそのサイン
40〜50代、そして中小企業の経営者だからこそ抱えやすい“特有のストレス”があります。
代表的なものを挙げると:
- 資金繰り・キャッシュフローの責任
- 人材確保・定着・採用の難しさ
- トラブル対応(退職・クレーム・業務負荷)
- 業績不安・市場変化への適応
- 相談相手の不在による孤独感
この積み重ねは、「息苦しさ」「集中力の低下」「眠れない」「朝の活力低下」といったコンディション低下へつながります。
あなたの判断を鈍らせる正体とは?経営者を蝕む3つのメカニズム

経営者として日々走り続けていると、「いつも通りに仕事をしているはずなのに、判断が重く感じる」 「気持ちが前へ出ていかない。そんな瞬間がふと訪れることがあります。その裏側では、“判断の質”そのものを揺るがす3つのメカニズム が静かに働いています。
それが、
- 判断疲労
- 認知過負荷
- 判断ノイズ
です。どれも特別な話ではなく、むしろ40〜50代の経営者ほど無意識に影響を受けやすい要素だと言われています。 日々の業務の積み重ねの中で、誰にでも自然に起こり得る現象です。
① 判断疲労|決断の回数が脳のエネルギーを奪う
まず「判断疲労」。経営者の1日は、大小合わせて20回〜300回もの意思決定で構成されています。判断を重ねるほど脳のエネルギーが消費され、夕方になるほど「決めにくい」「判断しきれない」と感じるのは、ごく自然な反応です。決して意志が弱いわけではありません。
実際、Baumeister らの研究でも「意思決定を繰り返すほど脳の自己制御エネルギーが低下し、判断精度が落ちる」ことが示されています。(出典:Baumeister et al., 2012(Decision Fatigue)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6119549/
② 認知過負荷|頭の中の“交通渋滞”が思考力を低下させる
資金繰り、採用、顧客対応など複数テーマを同時に抱えると、脳は“渋滞”を起こします。
頭の中にタスクが渋滞すると、思考の持久力は落ち、普段ならすぐに判断できることでも迷いやすくなります。40代以降は、体力だけでなく思考の持久力にも年齢特性が出やすく、いつの間にか判断スピードが低下していることもあります。「なんだか最近判断が重い」が積み重なる背景には、こうした“負荷の蓄積”が静かに作用しています。
- 思考の持久力低下
- 判断の先送り
- ミスの増加
- 不安の増幅
40代以降では、特に顕著です。
Sweller の認知負荷理論でも、複数タスクが重なると判断スピードが低下し、ミスが増えることが確認されています。 (参考:Cognitive Load Theory, Sweller, 1988)リンク: https://mrbartonmaths.com/resourcesnew/8.%20Research/Explicit%20Instruction/Cognitive%20Load%20during%20problem%20solving.pdf
③ 判断ノイズ|疲れやストレスが引き起こす感情のブレ
そして、もうひとつ見逃せないのが「判断ノイズ」です。疲れやストレスが続くと、普段なら気にならない小さな言葉に反応してしまったり、未来への不安が増幅したりと、感情の揺らぎが判断の中に入り込みやすくなります。過去の体験から生まれるクセや先入観が、無意識のうちに意思決定に影響を与えることもあります。
この“ノイズ”は一度に大きな影響をもたらすわけではありません。むしろ日々の小さな誤差として積み重なり、投資判断・採用・人材配置・顧客対応など、事業の根幹に関わる場面でじわじわと差が出てきます。だからこそ、経営者自身のコンディションを整えることは、経営リスクへの備えと同じくらい重要なのです。
Kahneman らの研究でも、ストレスや感情要因は意思決定の誤差を増大させ、経営判断の一貫性を乱すと指摘されています。 (参考:Judgment Noise, Kahneman et al., 2021)
リンク:
https://link.springer.com/article/10.1057/s11369-022-00251-w
- 採用判断
- 投資判断
- 人材配置
- 顧客対応
など経営の根幹に“ばらつき”が出ます。
では、このような状況から抜け出し、経営者としてできるだけベストな状態でい続けるには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。次の章では、そのための「実践ステップ」についてお伝えします。
明日からできる!判断の質を取り戻す経営者のための“3つの実践ステップ
経営者のメンタルが揺らぐと、重大な判断だけでなく、毎日の“細かな意思決定”にも影響が出ます。それが蓄積されると“判断の質の劣化=機会損失”につながります。実際、経営者のストレスが判断力に及ぼす影響は無視できないという報告があります。 この点を踏まえ、弊社では次のような「習慣設計」には、以下の3つがあります。
それぞれについて、具体的なステップを説明します。
【毎朝10分】判断の“交通整理”で、1日のパフォーマンスを最大化する
①毎朝10分、今日の“判断10件”を頭の中で数え、「判断できそうか/迷いそうか」を可視化する時間を持つ
毎朝10分|“今日の判断10件”チェック(可視化ルーティン)
目的: その日の判断体力(Decision Energy)を事前に把握し、ミスや迷いを減らす。
STEP1:今日の判断予定を10個書き出す
例)
・A社への見積もり返信・採用面談の通過判断・顧客クレームへの対応可否
・経費承認・新サービスの価格判断・スタッフ配置の最終決定・家族のことで判断が必要な件・健康(疲労)の判断
STEP2:「即決できる/迷いそう」を◯△で分類する
◯=即決可能△=迷いそう(判断に負荷がかかる)△が多い日は“判断負荷の高い日”と認識する
→ この時点で、判断ミス・疲労リスクが高いことを事前に認知をします。
【週1回】「迷った決断」の振り返りで、判断基準をアップデートする
週1回、「迷った決断」を振り返る時間を予約し、迷った理由を掘り下げる(例えば「顧客対応で迷った」「人材採用で迷った」など)
STEP1:迷った判断を3件だけ書き出す
例)
・スタッフ評価で迷った
・顧客の要望の線引きで迷った
・採用可否で迷った
STEP2:迷った理由を“事実ベース”で書く
情報不足・感情ノイズ・判断基準の曖昧さ・選択肢を出し切れていない・評価軸が1つに偏った・相手の反応を気にした
STEP3:次回は迷わないための“再発防止1行ルール”を書く
例)
・採用判断は「行動量・継続力・自走力」に全振りする
・顧客要望は“赤線”を事前に決める
・スタッフ評価は「成果・姿勢・再現性」の3軸だけで判断
【月1回】“予備休息”と“判断ゼロ日”で、脳を意図的にリセットする
判断が多数求められる時期(決算期、採用期など)は、事前に社長の“予備休息”をスケジュールし、判断力が落ちないよう備える
このように、「大きな壁を乗り越えるために備える」のではなく、「日々の判断を守るために備える」という視点を持つことで、結果として事業パフォーマンスも安定しやすくなります。
STEP1:カレンダーに“判断集中日”を先に入れる
例)
・第1金曜:請求書・経費・月次判断
・第2火曜:採用の通過判断
・第3木曜:スタッフ配置の最終判断
STEP2:集中日の前日には、判断を減らす“予備休息”を入れる(30〜60分)
内容例:
→ たったこれだけで判断の精度が上がる。
STEP3. 判断量が増える月は、必ず“判断休息日”を1日入れる
例)月1回:午前中は判断ゼロ
やること:
→ 判断疲労(Decision Fatigue)を“ゼロ化”する日。
「気づき・早期対応」を仕組み化する
メンタル不調は、突然の休職や離職という形で表出する前に、「なんとなく力が出ない」「会議で頭が回らない」「眠れない夜が続く」といった“前兆”を伴うことが多いです。 厚生労働省+1
そのため、経営者としては「前兆に気づく仕組み」を社内に、そして自分自身にも持たせるべきです。
例えば、
これらを「やったら終わり」ではなく、「定期的に振り返る経営ファンクション」の一つと捉えることが、経営者としての継続性を担保します。
経営者が陥る“悪循環”を断ち切るための4つの経営視点

経営者のメンタルヘルスを考えるうえで大切なのは、「セルフケア=気合や根性でなんとかするものではない」という視点を持つことです。経営者の判断力・集中力・視野の広さは、個人の精神状態と組織構造の両方に影響を受けます。ここでは、経営者が知っておくべき3つの視点を整理します。
視点1:メンタルヘルスは「コスト」ではなく「経営品質」そのものである
多くの中小企業経営者は、従業員のメンタルヘルスを「コスト」や「福利厚生」と捉えがちです。
しかし、実際には経営者のメンタルヘルスこそが、 企業全体の判断スピード・組織の一体感・社員の心理的安全性を左右する経営資源” です。
例えば、
・判断の遅れ
・決断の先送り
・感情の揺らぎ
・集中力の低下
これらはすべて、企業の売上や社員の士気に直結します。「社長の判断力」=「会社のパフォーマンス」 これは中小企業ほど顕著な関係性ですよね。だからこそ、経営者のメンタルや体調管理は“経営品質の管理そのもの”という視点が欠かせません。
視点2:“経営者の孤独”は仕組みで解消する|社外に「判断の壁打ち相手」を持つ
経営者の孤独は、よくある“メンタル論”で語られますが、実際はもっと構造的な問題です。
社内では相談できず、 家族には心配をかけたくない。役員同士でも立場があり、すべてを共有できるわけではない。この「孤立」は、判断にノイズを生みます。
起こる影響
孤独は気合で克服できません。必要なのは、外部とつながる構造を持つという発想。
社外の相談相手や経営者コミュニティは、「愚痴を言う相手」ではなく、判断の視野を広げ、認知の偏りを戻す“経営インフラ” です。孤独を減らす構造を持てている経営者ほど、 判断の質が安定します。
判断力は「体調」と「仕組み」の掛け算で決まる
経営者にとって、セルフケアは「おまけ」ではなく、事業を続けていくための大切な“投資”です。たとえば、睡眠不足や疲労が蓄積すると、脳の処理能力が下がり、情報が整理しづらい・慎重になりすぎる・決断が先送りになるといった“判断の重さ”が生まれます。これは意志の強さではなく、脳の働きによるものです。
しかし、体調を万全に整えるだけでは不十分です。
同時に、決裁が社長一人に集中していたり、権限移譲が進んでいなかったりする「組織の仕組み」の問題があると、日々の判断がすべて経営者に押し寄せ、脳は常に過負荷の状態になります。情報の渋滞が起きることで、視野が狭くなったり、判断の精度が落ちたりしやすくなるのです。
つまり、経営者の判断精度は、以下の掛け算によって決まります。
判断の精度=体調(脳の処理能力)×仕組み(判断負荷の量)
体調だけ整えても、仕組みが混乱していれば判断は重くなる。仕組みがいくら整っていても、疲れが溜まっていれば判断は鈍る。この2つが同時にそろって初めて、経営者はブレない判断軸を保つことができるのです。
まとめ
長く事業を続けるには、経営者自身のメンタルヘルスこそが土台です。今回は、「なぜ経営者のメンタルが重要か」「制度・基礎知識」「実践ステップ」「弊社オリジナル視点」の4つの章でお伝えしました。 特に40〜50代の経営者の皆さまは、変化激しい市場・組織・人材環境の中で、“意思決定と健康”という二重の責任を抱えていらっしゃいます。どうか「自分の調子を整えること=会社を守ること」だという視点で、今日から一歩動いてみてください。“小さな習慣”が、長い経営人生を支える大きな備えになります。
無料相談・資料請求をご希望の方は、ぜひ弊社までご連絡ください。明日も判断力を保って健全に舵を取れるよう、私たちも伴走させていただきます。
※免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としています。診断・治療・経営判断を保証するものではありません。必ず専門の医師や産業保健スタッフ、また経営アドバイザー・士業(税理士・社労士)等にご相談ください。


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